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東京高等裁判所 昭和60年(行ケ)159号 判決

一 請求の原因一ないし三(特許庁における手続の経緯、本願発明の特許請求の範囲の記載及び審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、審決を取り消すべき事由の有無について判断する。

1 前記争いのない本願発明の特許請求の範囲の記載、成立に争いのない甲第二号証の二(昭和五八年一二月一四日付手続補正書による全文訂正明細書・本願明細書)及び三(昭和五九年一〇月三一日付手続補正書)によれば、本願明細書及び昭和五九年一〇月三一日付手続補正書には本願発明は、前記特許請求の範囲に記載されたとおりの構成を採用することによつて、次のような目的ないし効果の実現を意図したものであることが記載されていることが認められる。すなわち、

(1) 本願発明は、例えばパターン焼付等に用いる超精密パターンジエネレーター装置等の光学機器に用いられる焦点検出用電磁制御光学装置に関するものであるが、従来のパターン焼付機、顕微鏡、測定機等は、焦点合わせ操作を手動サーボモータ等により機械的にレンズ本体をラツクピニオン及びネジ等で回転又は直線運動で行つているので、ストロークが大きく、ギヤー及びネジによるバツクラツシユの影響で、精密な焦点合わせが非常に困難であり、これが自動化を困難にしたり、また焦点合わせに要する時間がかかるなどの実用上の欠点となつていたこと(本願明細書一頁一四行ないし二頁五行・昭和五九年一〇月三一日付手続補正書二頁1)

(2) 本願発明は、前叙の従来の欠点を除去するもので、パターンジエネレーター、測定機、顕微鏡等の光学機器の焦点検出を迅速、かつ正確に行うことを目的としたものであること(本願明細書二頁六行ないし九行・同手続補正書二頁2)

(3) 本願発明の第1図の例においては、電歪素子10の作用によつて直接縮写レンズ8aを振動させるため、電歪素子10の微細な変化量が直接焦点位置の移動量となり、また測定素子5からの出力に応じて制御をかけることにより、前記微分値が最大値を示す焦点位置を焦点振動振幅の中心にもつてくることができ、振動を減衰させ停止した時には高精度の焦点位置が得られること(本願明細書五頁六行ないし一三行・同手続補正書三頁8)

(4) 電歪物質の代わりに磁歪物質(磁歪素子)を用いても、全く同様に焦点位置の検出を行うことができ、また電歪素子の代わりに電磁石を用いることもできるが、この例(第2図)における焦点位置の検出は第1図の場合と同様に、検出装置である測定素子5からの出力を電磁石21に与えて行うことができること(本願明細書六頁七行ないし七頁六行)

(5) 本願発明に係る装置を用いる場合の焼付方法の一例をあげれば、縮写レンズ8を、電歪素子、磁歪素子又は電磁石により各例に述べたように振らせておき、焦点位置が検出されたときにフラツシユさせるか又は露光させることによつて短時間に焼付けを行うことができること(本願明細書九頁一七行ないし一〇頁三行・昭和五九年一〇月三一日付手続補正書三頁14)

(6) 本願発明によれば、一二μの乾板の凹凸に対しフラツシユ時間一〇μsecのXeランプを使用して、自動的に焦点を0・05μ以内に抑え、縮写1/250~1/2〇〇〇で五〇回/sec以上の速度で、焦点合わせ及び焼付けをすることが可能であること(本願明細書一〇頁六行ないし一〇行)

2 特許法三六条四項の規定に該当しないとする点(取消事由1)について

審決が、「微分値がいかなる理由によつて焦点位置に関係するのか明らかでなく、焦点位置を検出するための構成」についての記載が不備であるとした判断は、被告の本訴における主張をも勘案すると、要するに、<1>縮写レンズを光軸方向に振動させ、パターンの明暗の境界が焦点位置を検出できるように測定素子をよぎらせるという実施の態様、<2>右パターンの明暗の境界が測定素子をよぎるとき、その出力の微分値を読むという実施の形態及び<3>出力の微分値を読んだ後、その微分値をどのような構成の、どのような動作によつて焦点位置の検出作用を行うかの点が、本願明細書の「発明の詳細な説明」及び図面からは理解できないと指摘した趣旨と解される。そこで、「発明の詳細な説明」における「焦点位置の検出」に関する記載内容を、前掲甲第二号証の二、三に即して検討すると、前記1(3)ないし(6)記載の事項のほか、被告指摘に係る(A)及び(D)の記載のあることが認められる。

ところで、審決が記載不備として指摘したものと認められる事項のうち、まず、<1>についてみるに、縮写レンズを振動させるためには振動に対応した周波数を有する交流電流を電歪物質等に付与すればよいことは理解できるとしても、すでに認定したところから明らかなごとく、「発明の詳細な説明」には、振動を発生させるための具体的な構成は何ら開示されていない。ちなみに、原告が、本願発明の技術内容が示されていると主張するところの刊行物(成立に争いのない甲第八号証)(「精密機械」 四〇巻一二号一九七四年一二月号一二頁ないし一七頁)によれば、本願発明における焦点位置の検出には、焦点合わせ用図形(明暗の境界を有するパターン)もしくは検知器スリツト状の感光部分のいずれか一方を相対的に振動させること、また、同時に感光面を振動させる態様などのあることが窺われるが、本願発明の詳細な説明には、明暗の境界を有するパターンもしくは測定素子を振動させる態様について何らの記載も見いだせないばかりでなく、明暗の境界を有するパターンもしくは測定素子の振動と縮写レンズの振動とを併用することについても何ら記載されていない。更に、前記<2>の事項についてみると、測定素子が受ける光量に応じた大きさの電気信号を微分回路に加えれば、微分回路の出力として測定素子の出力の微分値が得られることは理解できるとしても、前叙のようにパターンの明暗の境界がどのような態様によつて測定素子の上をよぎり、それによつて測定素子からどのような出力(電気信号)が得られるのかが明らかでないので、結局、「測定値を読む」という実施の形態も理解し難いこととなる。また、<3>の「出力の微分値を読んだ後、その微分値を焦点位置の検出作用に用いるための構成及びこれによる動作態様」の点については、本願明細書及び図面を精査しても、これらについて具体的に説明する記述は見いだせない。前認定(一)の記載のうち、「感光面9に焦点が近づいた時、測定素子5で検出される光出力の微分値はだんだん大きくなり、焦点に感光面9が来た時最大値を示し、焦点をすぎれば光出力は減衰していく、従つてその最大値を示したレンズ8aの位置が焦点位置として検出出来る。」との記載は、結果的にそうなるといつているにすぎず、また、前段の「縮写レンズ8aを振動させると共にパターンの明暗が、焦点位置を検出できるように測定素子5をよぎるごとくすれば」との記載からは到底、審決の指摘するとおり「パターンの明暗の境界が焦点位置を検出できるように測定素子をよぎるごとくする」ところの具体的な構成及びこれによる動作態様を理解することはできないし、右の記載に、原告の指摘する他の箇所の記載を併せ読んでみても同様である。この点、原告は、本願発明における焦点位置は、<1>縮写レンズの振動、<2>パターンの明暗の境界が焦点位置を検出できるように測定素子をよぎる、<3>測定素子の出力の微分値を読む、という三つの条件によつて行う旨主張して、これらの点についてるる主張するが、肝腎の<2>の「パターンの明暗の境界が焦点位置を検出できるように測定素子をよぎるごとくする」ところの具体的な構成及びこれによる動作態様を理解することはできないことは、前叙のとおりであるから、この点の原告の主張は失当というべきである。更に、原告は、「パターンの明暗の境界を時々刻々よぎらせる」という手段は、公知の手段である旨主張し、甲第一〇号証(特公昭三二―八三四六号特許公報)及び第一一号証(特公昭三九―一八七三四号特許公報)を提出し、参考資料に基づいてるる説明するが、成立に争いのない甲第一〇号証及び第一一号証によれば、それらに記載された技術手段は、光電変換素子の前にスリツト付きの遮光板を配置し、遮光板を光電変換素子上で移動させることにより光電変換素子上に得られた像の明暗の境界の鮮鋭度を電気信号の形で検出し、もつて像の焦点位置を検出しようとするものであることが認められるところ、この技術手段は、明暗の境界を有するパターンもしくは測定素子を振動させるものではなく、ましてや、明暗の境界を有するパターンもしくは測定素子の振動と縮写レンズの振動とを併用するものでもないから、右の技術手段は、本願発明にいう「パターンの明暗の境界が測定素子をよぎるごとくする」手段には該当しないものというべきである。また、前叙のとおり本願明細書には、明暗の境界を有するパターンもしくは測定素子の振動と縮写レンズの振動とを併用する点の記載はないのであるから、当然に、縮写レンズの振動数、右振動数と明暗の境界を有するパターンもしくは測定素子の振動数との関係についての記載があるわけはなく、しかも、縮写レンズを振動させるときに、同時に、明暗の境界を有するパターンもしくは測定素子を振動させることは自明な技術でもないから、単に縮写レンズを振動させる旨の記載だけから、その振動数と明暗の境界からパターンもしくは測定素子の振動数との関係を理解することはできない。してみれば、縮写レンズの一回の一方向の移動に際してパターンの明暗の境界が測定素子を複数回よぎることは明らかなこととはいえず、また原告が、参考資料第2図に基づいて説明するごとく、縮写レンズの一回の方向の移動に際して、測定素子で検出される光出力の微分値はだんだん大きくなり、焦点に感光面がきた時最大値を示し、焦点をすぎれば光出力は減衰していくということも明らかではないといわざるを得ない。右のとおりであるから、原告の主張及びその提出に係る前掲各証拠を検討したうえで、本願明細書及び図面の記述をみても、結局、「パターンの明暗の境界が焦点位置を検出できるように測定素子をよぎるごとくする」ところの具体的な構成及びこれによる動作態様を理解することはできないから、審決が、本願明細書の「発明の詳細な説明」は、焦点位置を検出するための構成を当業者が容易に実施をすることができるように記載したものとは認められないとし、特許法三六条四項の規定に違反するとした判断は正当であり、この点に原告主張のような違法はない。そうすると、本願はこの点ですでに特許を得ることはできないことになるから、その余の点についての判断をまつまでもなく、原告の請求は理由がないこととなる。

三 以上のとおりであるから、その主張の点に認定判断を誤つた違法があることを理由に、審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものとし、これを棄却することとする。

〔編注1〕本願発明の特許請求の範囲の記載は左のとおりである。

パターンと感光体の間に介在し、電歪物質、磁歪物質、又は電磁石により直接移動するレンズ及び該レンズを通つて該感光体に投影されるパターンの焦点を検出する検出装置より成り、該検出装置によつて検出される出力に応じて前記電歪物質、磁歪物質、又は電磁石を制御して前記レンズにより投影されるパターンの焦点検出を行うようにしたことを特徴とする電磁制御光学装置。

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